《2・3・7・8TCDD》1985
サイズ可変

 

いたるところに増殖するダイオキシン。

神戸の下町・春日野道にある廃業した喫茶店「喫茶スズヤ」を会場として開催された個展「2・3・7・8TCDD PROPAGATION」で発表された作品。ダイオキシンをテーマに制作。タイトルにもなっている《2・3・7・8TCDD》は、現在、ダイオキシンのなかでも最も毒性の強い発ガン物質として知られている。

本作品が発表される8年前の1977年、日本において初めてダイオキシンが検出され、新聞の一面を賑わせた。しかし、そんな猛毒が検出されたにも関わらず、約1週間でぱたりと話題から消えてしまったという。榎はそれに対して不思議さを感じ、都合の悪いことを隠蔽してしまうという人間の性に憤りを覚えた。そこからダイオキシンという見たこともない猛毒に対する妄想が膨らんでいった。その妄想とは、ある下町の喫茶店の地下からダイオキシンが湧き出て、繁殖し、生き物のようなひとつのオブジェになるというものであった。そして、そのオブジェはすべてある一定方向に頭を向けている。それは、大阪湾の方向で、現在の関西国際空港ができる予定の場所であった。榎はそこに、海から大阪湾へ辿りついたダイオキシンの溜まり場、基地ができるのではないかと想像したのである。

「喫茶スズヤ」での展示後、神戸・三宮のショッピングセンター「さんちか」や、岡本にある榎の知人宅周辺でも発表され、《2・3・7・8TCDD》は、あちらこちらで徐々に増殖していく作品となった。