《BAR ROSE CHU》1979 
サイズ可変

神戸・三宮の繁華街に突如現れた幻のBAR。

東門画廊にて2日間のみ開催された前代未聞の展覧会「BAR ROSE CHU」で発表された。「BAR ROSE CHU」は、榎自ら扮する女店主ローズチュウが飲み屋を開いたという設定で行われた。BARとなった画廊内にはカウンターが設置され、背後にはローズウイスキーなるオリジナルラベルの貼られたウイスキーが並べられた。店内のテレビには、榎自ら出演、脚本も手がけたローズチュウ誕生の映画が映し出された。榎忠と、そのなかに潜むローズチュウとの格闘が描かれた映像である。

自分とは異なる別の性を持つ女性――さまざまな意味で、もうひとりの人間、想像する人間をつくりたいという願望からローズチュウは誕生した。展覧会「BAR ROSE CHU」では、無料で夢のような飲み屋がつくりたかったのだという。実際、飲み放題から始まるさまざまなサービスがあり、すべて無料で提供された。2日間のみの開店ではあったが、両日とも超満員だったという。店の噂が広がったときには、すでに店は無く、訪れた客の噂に対し、幻だったのではないか、酔っていたから幻覚を見たのではないかなどと、噂がさらに噂を呼んだ。

表現することで人を驚かせたいという榎の作品スタイルが、造形物とはまた別の形で表現された作品。当時、日本の美術表現において、このような作品形態を持つアーティストはおらず、“場をつくることも含めて発表する作品”の先駆けとなった。